CASE13
事務所棟を持つA邸は、道路に面した黒い外観からは想像がつかないほど、その贅沢すぎるくらいの自然素材の使い方が大きな特徴の住まい。木造の軸組による構造美は、そのダイナミックすぎるほどの存在感ながらも、自然素材が持つ温もりと優しさが、庭からの光と風に調和して快適な住空間を創造しています。古くからの日本家屋が持つ柔軟性と動線を考慮した回遊性によって、ライフスタイルの変化にも対応できるようになっています。
四季の緑を愛でることのできる庭からの光と風を、開け放たれたガラス戸から取り込めるリビング・ダイニングは、エアコンを使わなくても過ごせる快適空間。リズミカルな大梁と小梁の軸組のあらわしの天井に光がつくりだす美しい陰影をもたらし、通り抜ける風に時間を忘れてしまうほど、ゆったりとした居心地のよさを感じる住まいとなっています。室内と庭の間に「縁」と呼ばれる吹き抜けのスペースがあり、内と外をつなげる空間となっています。
磨き込まれた美しいステンレスのオーダーメイドキッチンは、洗い物などをするシンク側が高く、調理を行うガスコンロのある調理台側が低く設計されています。これは作業の際の動作を考慮して設定されてあり、家事の作業効率が数段よくなると言います。ダイニングテーブルのあるシンクの前はカウンターとなっていて、配膳や片付けの動線もスムーズに。天井にはトップライトが設けられ、光をもたらすだけでなく、調理中の排熱にも配慮したものとなっています。
回遊性を考え、2カ所に設けられた階段をつなぐ廊下は収納スペースとして、お子さまの思い出の品をディスプレイとして、また本棚としても活用されています。2階のそれぞれの居室の上部はすべてロフトとなっており、すべての部屋はこのロフトでつながっています。そのため家族の気配を感じながらも、お互いのプライベートを尊重できるように配慮されています。あらわしの天井の形状もユニークで、光がふりそそぐ明るい空間が広がっています。
1948年徳島県生まれ。無有建築工房主宰。大阪市立大学大学院教授。日本の伝統建築の空間構成や素材、技術を自身の建築に新たな解釈で取り入れ、職人たちとの恊働によって多くの作品を生み出す。その作品は、村野藤吾賞、関西建築家大賞、日本建築学会作品選奨など数多くの賞を受賞し、高い評価を受けている。